宮内舎の玄米麺が、最後の一口までおいしい理由
宮内舎の玄米麺が、最後の一口までおいしい理由。
一口目より、最後の一口がおいしい、麺。・・・って?
たしかに、パスタもラーメンもうどんも、つるっとすすった一口目が一番おいしくて、夢中で食べ始めるんだけど、最後の方はちょっと胃もたれしていたりする。
ところが、島根の宮内舎(みやうちや)の「玄米麺」と「白米麺」は、最後の一口までおいしい。
「決して派手ではないけれど、食べた後にほっとしたり、じんわりと身体に染み込んだり、育てられた田んぼを想像したり。そんなおいしさを目指しているんです」
人気ラーメン店でも使われる、もっちもちの「玄米麺」
今日はパスタかな、ラーメンかな、それともそうめんにしようかな。リモートワークの合間の昼ごはんや小腹がすいた夜食に、さっと作れる「麺」メニューは、簡単でおいしくて最高ですよね。
ただ、これらの「麺」は、ほとんどが「小麦粉」を主な原料としています。最近では「グルテンフリー」という言葉もよく聞かれるようになりましたが、小麦から生成される「グルテン」は、人間の体内で完全に分解されにくく、お腹が張ったり、体質によっては消化不良を起こしてしまうこともあると言われています。そう、麺を一皿食べ終わる時に「げぷ」っとなるのは、グルテンのせいかもしれません。
小麦を使わずに「最後の一口までおいしい」を目指したグルテンフリーの「お米の麺」を作っているのが、島根県の「宮内舎(みやうちや)」。主に「玄米麺」と「白米麺」を販売しています。
「お米の麺」と聞くと、ぼそぼそしているのかな…と思いきや、弾力があってもちもちの新食感。つるっとした口当たりながら、しっかり食べごたえもあり、噛むほどにお米ならではの風味や甘みが広がります。
玄米麺は、スパゲッティのような細さで、ラーメンやパスタとして調理しても◎。でも、宮内舎の小倉綾子さんの一番のおすすめは、お醤油だけのシンプルな味わい方。おにぎりの具材のように、ちょっとした具材で多様なアレンジができます。「その時々の体調や気分に合わせて、卵、海苔、ワサビ、肉味噌、薬味などをちょっと入れるくらいでも十分においしい。おむすびにちょっと具を入れるくらいの感覚です」。
白米麺は、フィットチーネやきしめんのような平麺。うどんのようにだし汁や、冷たくしめてざるうどんにも。もちろんラーメンやパスタにもできます。こちらも、めんつゆだけでシンプルに味わうのもおすすめ。お鍋のシメにもぴったり。
この宮内舎のお米麺、人気のラーメン屋「ソラノイロ(東京駅)」「麺匠 真武咲弥(渋谷)」などでも、グルテンフリーメニューとして提供されているそう。小麦を控えている若い方や、外国人の方が主に注文されるようですが、そうでなくてもお米麺のラーメンを目的に食べに行きたい…!
きっかけは、小麦アレルギーと実家の耕作放棄地
宮内舎のお米の麺が最後の一口までおいしい理由は、グルテンフリーだから、というだけではありません。
“人と自然の循環を生み、真っ当に作っている玄米麺。お米は農家さんと共に育てた特別栽培米100%使用。私たち宮内舎は、来年もその先も、環境に配慮しながらあなたと共に土を耕していくことを目指します。”
島根県の山間にある小さな集落で、小倉さん夫婦が営む宮内舎。自分たちも稲作をしながら、周りの契約農家さんとともに、安心安全でおいしいお米をつくり、それを米粉やお米の麺として加工しています。
綾子さんの親族は、代々農家でご両親は酪農家。小さい頃から自然や農業に興味はあったものの、社会人のはじめは上京して会社に勤めていました。上京中、頭痛やだるさなど体調不良の原因が、自分自身の小麦アレルギー(非セリアックグルテン過敏症)だと知り、マクロビオティックなどを勉強するように。小麦よりお米が自分の体質にあっていると分かり、米粉の麺を手作りしていました。その後、島根へUターンした際に、実家の耕作放棄地で何かできないかと考えた策が、お米を育てて、それをグルテンフリーの麺として加工するということでした。
「昔と比べて日本の食生活が変わり、年々お米の消費量は減っていっています。周りの農家さんも、田んぼをやめて別の作物に転作するところも増えていて。時代の流れを引き戻すことはできませんが、私のように小麦が食べられない人にとっても、お米の麺という選択肢があると良いなと思って作りはじめました」
食べることは、土を耕し自然とつながること
お米の焙煎度合いや粉砕方法などを試行錯誤して、納得のいく食感や味わいにたどり着くまで3年ほどかかったそう。お米は「特別栽培米」(節減対象農薬・化学肥料を当地比で5割減)を100%使用。お米づくりからこだわり抜いています。
契約農家さんの条件は、「丁寧なお米づくりをしている人」。日頃から雑草をこまめに刈っているか、道具を綺麗に使っているか。そんなところに、お米づくりに向かう姿勢が表れています。
農薬に頼りすぎずに安心安全でおいしいお米を作るためには、相当な労力がかかります。それを正当な値段で買い取りたいという思いから、宮内舎ではJAの1.7倍~3倍の値段で購入しているそう。
「一度途絶えてしまったらもう戻らないかもしれない。お米づくりを通して、農家さんたちの考え方や哲学をつなぎたいんです。虫も悪者にしないとか、全て意味があって繋がっているとか。何千年も前から続いている稲作という行為は、見えないものの存在と繋がる祭りごとでもある。お米は、その文化を継いでいくためのツールなのかもしれません」
宮内舎がお米の加工品を通して伝えたいのは、「食べる」ということが、遠くの農地を耕すことに繋がったり、自然や八百万(やおよろず)の存在と繋がるんだということ。
「食べることは、命をいただき、自然の一部になって命を全うすること。そして、食べることで、その農家の農地を一緒に耕しているということにもなる。買い物は投票です。丁寧に作られたものを選ぶということは、一生懸命耕す農家さんを応援して、自然を守るということに繋がるわけです」
森ー田畑ー海、そして食卓。全てがより良く循環し、次世代へつなげていきたい。宮内舎の静かでおいしい挑戦は、まだまだ続きます。