“代替肉”ではなく、それ自体として美味しいソイミートを。
東京・外苑前。
『ORGANIC TABLE BY LAPAZ(オーガニックテーブル バイ ラパス)』という、ヴィーガンレストランがありました。
2020年11月に、ビルの老朽化により閉店するまでの9年間、プラントベースの愛ある“ジャンクフード”を提供し続け、みんなに愛されたレストランでした。
なかでも、ソイミートのハンバーガーは伝説的で、ヴィーガン料理を食べたことがない人が、最後まで大豆でできているとは気がつかずに美味しく食べて帰る人もいたほど。
現に、筆者である私も、ラパスのソイミートにそれまでの概念を覆されたひとり。動物のお肉を食べることが当たり前だった生活から、これさえあれば十分満足できるかも...むしろ、こっちの方が美味しい!と衝撃を受けたのを、今でも鮮明に覚えています。
「世界中のみんなが、笑って同じものを食べられる食事って何だろう?と考えたら、ヴィーガンのお料理だったんです。」
『ORGANIC TABLE BY LAPAZ』のオーナーであり、『LOVEG(ラベジ)』のディレクターを務めるライフスタイリストの大田由香梨さんは、ゆったりと、LOVEGについて、ヴィーガンについて、そして環境や地球について、語ってくれました。
ラパスのソイミートを、家庭のキッチンに。
そんなラパスのソイミートを、もっと日常に寄り添った形に。
週に一度お店に来てもらうのではなく、家庭のキッチンに。
「LOVEG」は、大田さんやラパスのクルーたちのそんな思いから、ラパス閉店直前の2020年7月に販売が開始されました。
「ソイミートがみんなの家庭のキッチンに常備されるようになったら、世界が変わると思うんです」と、大田さんは言います。
LOVEGのホームページには、こんな文章があります。
「現代は、毎食お肉を食べられるほど豊かな食生活が実現しています。
しかし、背景にある食肉産業では、地球上の大量の資源を必要とします。
私たちが生きるための食が、私たちが住む地球の環境を破壊するという悲しい現実。LOVEGは畑で採れた大豆を、そのまま加工したシンプルなハイプロテインフード。
週に1日でも食事のメニューが、お肉からLOVEGに変わることで循環するバランスの良い環境が実現する未来を私たちを願っています。」
このように食肉畜産業が地球の環境に及ぼす影響について、人々が認知するようになったのは、ここ数年のこと。
特に、2020年、世界中がステイホームをしていた期間に起きたパラダイムシフトを、大田さんは肌で感じたといいます。
「4月の初めから5月末の約1ヶ月半お店を閉めて、再オープンしたら、連日行列ができるようになったんです。それまでは海外のお客さんが多くて、行列になることなんて無かったのに。これは、その1ヶ月半で、環境問題やヴィーガンに対しての日本の人々の意識に大きな変化が起きたということ。9年間お店をやってきて、初めてのことでした。」
少しずつ、確実に、変わっていった世界。
ラパスがオープンしたのは、2011年の東日本大震災のあと。
当時、ファッションスタイリストとして活躍していた大田さんが、新たに”食”の領域に踏み込んだのは、そこで自身の意識に変化があったからでした。
「震災が起きて、私たちは自然や見えないものたちと生きている、という感覚がすごく強くなって。同時期に、”マクロビオティック”に出会ったことで、崩していた体調が改善していったんです。そこで、私自身の意識ががらりと変わりました。」
だから、ラパスのメニューも当初からマクロビオティックをベースとしていました。
ただ当時は、マクロビは美味しくない、ちょっと怪しいなど、マイナスなイメージが先行していた上に、ましてやお肉を出さないとなると、ビジネスとして成立しなかったといいます。
そこから、ラパスのメニューが完全にヴィーガンにシフトをしたのは、さらに数年後のこと。
「オープンしてから一生懸命駆け抜けてきて、他の仕事もしながらお店を回して、忙しくて心身ともにボロボロになっていた時があって。そんな時に、ひとりで自分のお店に座っていたら、『チキン入りましたー!』と、チキンの注文がどんどん入っていくのが聞こえてきたんです。そうしたら、勝手に涙がポロポロ出てきてしまって。『あぁ、私は鳥さんの命を売る仕事を始めてしまった。なんてことをしてしまったんだろう』って。そこで、お店をヴィーガンに移行することを決意したんです。」
ラパスは、大田さんの思いとともに、時代の変化とともに進化をし続け、そして最後には、みんなの意識がヴィーガンに向き始めたところで、惜しまれつつも一旦、幕を閉じたのです。
“代替肉”ではなく、それ自体として美味しいソイミートを。
主に環境問題の観点から注目され、世界中で「お肉の代わり」として語られることが多いソイミート。
しかし大田さんは、ソイミートをそれ自体として楽しんでほしいと願っているといいます。
そもそも、ソイミートの原材料である“大豆”は、日本でも古来から食されている原始的な食べ物。高タンパクで低脂肪、必須アミノ酸や食物繊維も豊富で、グルテンフリーと、良いこと尽くし。
また、ハイプロテイン食材として、世界中のトップアスリートや、スポーツやワークアウトをしている人たちからも注目されています。タンパク質は、65-70%が水、25-30%がタンパク質でできている人間の身体には、欠かせない栄養素なのです。
栄養価が高く、食肉のように広大な土地も必要としない。ソイミートはまさに、“循環する未来食品”。
「ただ、今は”お肉の代わり”として認知されている以上、初めて食べた時に美味しくなければ二度と食べてもらえない。だから私たちは、レシピもたくさん公開しているし、初めての方でも簡単に味付けができるように、植物由来のシーズニングソースも一緒に販売しているんです。」
とにかく、おしゃれ!や、可愛い!美味しい!という切り口で、ソイミートに触れてほしい、というのが、大田さんの願い。
「代替肉、というとハードルが高く感じてしまいがちですが、パスタと同じような感覚で家の保存瓶に保存しておいて、お湯やお水で戻して、さっと味付けして使うだけ。それ自体として、簡単で美味しいのが、ソイミートなんです。」
これからもっと進化していく、LOVEGと、ラパスと、新たなプロジェクトと。
LOVEGの名前の由来は、LOVE+VEGETABLEですが、そのLOVEGは、ラパスがプロデュースする“シードブランド”の第一弾の商品として、販売されています。
その“シードブランド”という世界観にも、大田さんの思いが詰まっています。
「普段はあまり意識をすることはないですが、実は、世界中の人たちが、“シード=種”を食べて生きていますよね。大豆も種。お米も種。種ってすごいと思うんです。あの一粒のなかから、植物ができていって、そこからまた、次の命になっていく。種は、生きる上での主軸になるものなんです。」
LOVEGも、ソイミートとしての進化を続けていくといいます。
「ミンチ、フィレ、ブロックの3種類を開発して、加工はとても良い感じです。今後は、原料を自分たちで選べるくらいにまで成長していきたい。今は海外の大豆を使用していますが、本当は、自然農の国産大豆100%でつくりたいんです。」
けれど、そこには課題もあります。
自然農の国産大豆を使用するには、現在の形では、一回で大豆を大量に仕入れなければならない。しかし、ソイミートの市場が、その生産量を捌けるほどには、まだ成長していないのです。
「つまり、食べる人が増えないと成長できないんです。だから今、私たちは、ソイミートの魅力を伝えている段階です。とはいえ、ブランドとして、商品として、まだまだ駆け出しの状態ですから。身の丈にあった形で進化させていきたいです。」
それに大田さんは現在、LOVEGのほかにも、新たなプロジェクトを進めています。
「9年間、切れ目なく続けてきたラパスを一旦閉店したことで、時間的にも自分の気持ちにも、余白ができました。お店を止めることができなかったから、狭くストイックになりすぎてしまっていた視野が一気に広がったんです。」
パーソナルプロジェクトとして進めている千葉の古民家へは、週末の度に通って改装を進め、いつかはリトリートができるような場所として開きたいと思っている。現在は他にも様々なプロジェクトを同時進行で企画している。
「今現在の広がった視野をいろんな形で表現していきたいと思っています。まずは自分でワクワクするようなプロジェクトを進めていって、その延長に、ラパスもあります。ラパスはいつでも復活できますから。」
代替肉やソイミートについて語られる文脈は、難しいことや悲しいことと共にあることが多い。けれど、家にソイミートがあることで、気分が上がったり、心が満たされたり、誰かにプレゼントしたくなったり。そんな気持ちを一番大事にしてほしい、と、大田さんは言います。
心が豊かでハッピーであることが、本当の意味でのサステナブルにつながる。
やさしく陽の当たる心地の良い自邸で、穏やかな眼差しでそう語る大田さんからは、とっても広い視点で地球や人間の幸せを考えながら、LOVEGのソイミートをつくっていることが、静かに伝わってきたのでした。