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ネパール・コタンの人々の幸せが、ずっと続きますように。 そんな思いをのせた「SANCHAI」のピーナッツバター

ネパールの首都、カトマンズから車で15時間。ヒマラヤ山脈を望む山岳地帯。

舗装もされていない、所々崖崩れを起こしているような山道を走って走ってやっと辿り着く、コタンという小さな村に「SANCHAI」の工場はあります。


村の農家さんがピーナッツ畑から収穫したピーナッツを買い取り、工場で働く女性たちが、ひとつひとつ手で殻を剥き、選別。それを丁寧に潰して、ヒマラヤ岩塩とオーガニックのブラウンカルダモンを加えることで、濃厚で香り高い「SANCHAI」のピーナッツバターが出来上がります。


実際、SANCHAIのピーナッツバターは濃厚で滑らかで、スパイスが効いたその味は、唯一無二。ピーナッツそのものの香りが口いっぱいに広がると、目を瞑ってじっくり味わいたくなるような、幸せな味がします。


だけど、その味は、美味しさを追求することで生まれたわけではないんです。そこが、SANCHAIの素晴らしくて、面白いところ。


ここから先は、SANCHAIのストーリーを綴ってみようと思います。代表である仲さんの素敵な思いと、試行錯誤と、幸運にも重なったちょっとした奇跡と、それから彼女がつくり出す幸せについて。



普通はやらない。だからワクワクする。

きっかけは2016年。仲さんが、前職のIT系スタートアップ企業の事業のために、コタンエリアを訪れたこと。

当時は電気も通っていない、学校へ通うのに片道4時間、見渡す限り山と畑と牧場が広がるばかり。日本に住んでいる私たちからすると、不幸せであるように感じるその環境で実際に暮らす人々は、思いがけずとても幸せそうだった、と仲さんは言います。


「現地で話を聞いた時、ある年配の男性が、“この場所に生まれ育って幸せ。ずっとここで家族で暮らしたい”と言ったんです。その言葉に深く感銘を受けて。彼らは、小さな幸せを見つけることが、とっても上手なんですね。その時に、ああ、この人たちの笑顔がずっと続くといいのに、と思ったんです。」


幸せを存続するには、支援だけでなく自立が必要。いかに、村の資源を有効に活用して、村の人たちで事業を循環させるか。そう考えたときに、村に豊富にあったリソースが、コタンで伝統的に生産されていた“ピーナッツ”でした。


「そうだ、コタンのピーナッツでピーナッツバターをつくって販売しよう!」そう思いついた仲さんは、普通では考えられない、ある決断をしました。

それは、電気も通っていないインフラ状態のコタンに、工場をつくること。

仲さんも最初は、現地に経済的な基盤を作るだけなら、インフラの整備された都市部に工場を置いて、コタンの農家さんが今まで買い叩かれていたピーナッツを適正値で買い取るだけで良いかと思った、といいます。

だけど、仲さんの最大の目的は「コタンの多くの人々の幸せをつくること」。

「お金だけが幸せじゃないですから。もしコタンに工場を建てたら、雇用も生まれるし、仕事をする中での成長や幸せを掴める。そうしたら、村の人々が、もっとハッピーになると思ったんです。」


奇跡的に、工場開業の3ヶ月前に村への送電が始まり、開業2ヶ月後には流通ルートに新しい橋もかかった。

「電気無しでどうやってピーナッツを粉砕するか、一生懸命考えていたところだったんですけどね(笑)。普通はそんなことやりませんよね。だけど、私にはコタンに工場を建てる以外の選択肢は考えられなかった。だからこそ、ワクワクしていました。」

 

 利益ではなく「いかに多くの人々の幸せをつくるか」を考えることで生まれた美味しさ。

「SANCHAIが美味しい理由は、二つあります」。仲さんは、楽しそうに笑いながら、こう教えてくれました。

一つ目の理由は、流通している大粒のピーナッツではなく、品種改良されていないピーナッツを使っていること。

「実はこっちの方が美味しいんだよ」と、現地の人々が“ローカルピーナッツ”と呼ぶ、その小粒のピーナッツのことを、仲さんにこっそり教えてくれたのだそう。

なぜ、美味しい小粒のピーナッツではなく、大粒のピーナッツばかりが流通していたのか。

それは、kgいくら、二束三文で買い叩かれる今までのピーナッツ産業では、小さなピーナッツでは割に合わなかったから。

「ローカルピーナッツは産業化されずにいたので、種を強くしてたくさん収穫できるようにするための品種改良も行われておらず、栄養価も味も自然のまま。タンパク質含有量は1.3倍で、とっても濃厚でした。私たちはそれを、平均単価から30%上乗せして、フェアトレードで買い取っています。産業は発達することが良しとされていますが、今回の場合は、逆に発達していなかったことが、大きな価値を残していた。それがすごく面白いですよね。」

二つ目の理由は、機械ではなく、人の手が多くかかっていること。

これも、最初は美味しさのためではなく、「いかに多くの幸せをつくれるか」を第一に考えた仲さんが、多く雇用するために考えたことでした。

「ピーナッツの殻剥きや、悪くなっている実をはじき出す選別も、普通は機械でやるのですが、とにかく多くの雇用を生みたかったので、それを人の手でどうやるかを考えたんです。そしたら、その方が安全に高い品質を保てることが後から分かって…。」

機械で殻剥きをすると、実の外側がどうしても傷ついてしまい、そこから酸化が始まり、ピーナッツ自体の味が落ちてしまうそう。でも、SANCHAIでは、殻剥きも選別も、すべて人の手によるもの。

人の手なら、傷は付きません。つまり、酸化も起こらず、長い間、鮮度が保てるのです。選別ももちろん人の手で。剥いた実を半分に割って、悪い粒を全て外していくので、格段に精度が高いといいます。

「普通は価格を抑えるために雇用する人を制限しようとするけれど、私たちはそれを逆転させたからこそ、思いしもしなかった嬉しい価値が生まれたんですね。」

もう一つ、偶然から生まれたことがあります。それは、ピーナッツバターにスパイスを加えること。

「電気なしでピーナッツをペースト状にするための研究をしていたとき、スパイスを潰す道具を使っていました。そうしたら、ピーナッツにスパイスの香りが移って、それが思いがけずとっても美味しくって!それから一番合うスパイスを探して辿り着いたのが、ブラウンカルダモンでした。」

 

 

「私たちが成長して、この村を良くしていきたい」SANCHAIの工場に集まった、11名の女性たち。

仲さんの思いの通り、SANCHAIの工場が建ったあと、コタンにとても良い循環が生まれました。

当時のコタンの平均的な暮らし方は、高齢の村民が農作業を担い、仕事がないため若い男性は都市部や海外へ単身出稼ぎに。その妻たちは村に残り、子育てや家の仕事をする、という毎日。

仲さんは、そんな村の暮らしのささやかな幸せを守りつつ、新たに「仕事」という刺激をつくることで、コタンにもっとたくさんの幸せを呼び込みたいと思っていました。

だけど、日本とは全く感覚の違うコタンの人々に、工場の仕事を任せるには、どうしてこの土地に工場をつくりたいと思ったのか、何を目指しているのか、村民一人一人に説明して回る必要がありました。 

工場建設予定地の周辺の50軒以上に足を運び、仲さんは「もし自分たちの工場を自分たちで作りたい、そう思うのであればぜひ私たちと一緒に働いて欲しい。」そう話して回りました。

最初は、女性だけに限った募集ではなかったといいます。けれども、結果的に集まってきたのは女性が9割以上。

彼女たちは口々に言いました。

「私たちが成長して、この村を良くしていきたいんです。」

そうして、SANCHAIの工場の稼働が始まりました。

仲さんが驚いたのは、工場が稼働し始めてしばらくしてから、再び工場を訪れた時。

彼女たちは、歩留まりが出ないように自分たちで工夫をしたりして、自分たちの意思で工場を回していたのです。

「コタンの女性たちが、きっかけを作るだけで自発的に成長していっている姿をみて、本当に驚きました。彼女たちにはただ、きっかけがないだけだったんですよね。」

現地の子どもたちは、働いている大人をあまり見たことがないので、これまでは将来の夢を聞いてもうまく答えられませんでした。でも最近は、イキイキと働いているお母さんを見て、「大きくなったら、お母さんの工場で働きたい!」と言ってくれるようになったそう。

週休2日。1日5時間労働。

彼女たちは、朝の家事を済ませ、子どもたちを学校に送り出してから、工場に出勤してきます。

月給は大体月1万円弱で、それは現地のサラリーマンの平均月収の約8割程度だといいます。

子どもたちも学校に通わせられるようになった。欲しいものを買ってあげられるようになった。 

「工場で働き出して、人生が大きく変化しました。責任を持って仕事をすることで、自分を誇りに思えたんです。」

そう目を輝かせる彼女たちの存在こそが、SANCHAIの美味しさの根底を形づくっているのです。

誰かの幸せに関わることができる幸せ。 

SANCHAIは今、新たな販路開拓や仕組みづくりに乗り出しています。

コタンの人々の幸せのために、とスタートしたSANCHAIの事業。実際に工場ができると、コタンの人たちは、本当にちゃんと幸せそうでした。

「みんな、“人生が変わったよ、ありがとう” と言ってくれました。その時に思ったんです。それで一番幸せを感じているのは、私自身なんだろうなって。でも実際には、この幸せが成り立つのは、SANCHAIの商品を購入してくれているお客様がいるからこそ。だから今後は、商品を提供して対価をもらう一方通行の形ではなく、双方向の形にしていきたいんです。」

仲さんは、自身の感じている “自分が誰かの幸せに関われたことに対しての幸せ” をお客様に感じてもらう仕組みをつくることが、自分たちメーカーがやるべきことだと感じているといいます。

「現地の工場の子達に、”日本のお客さんたちがこう言ってくれてるよ”と伝えると、とっても喜ぶんです。具体的には、それをお客様にそのままダイレクトに見せられる仕組みができないかな、と模索中です。ある意味で、ピーナッツバターがお手紙のようになって、思いが繋がっていくような。」

「もっとたくさんの人たちにピーナッツバターを届けたい!」

工場で働く女性たちの思いに応えるように、日本とネパールだけだった販路を、もっと世界に広げるために、国際NGO団体との連携も進めています。

現在開発中の、登山用のエナジーバーも、売り上げの一部をヒマラヤの自然を守る活動に寄付をしたり、ネパールの広大な自然を守ることも、今後していきたいことの一つだといいます。

 

一方で、様々な課題も抱えています。

決して安くはないSANCHAIのピーナッツバターを買ってもらうには、フェアトレードやエシカルへの意識が高い人たちに、どう届けるかをもっと考えなければいけない。

ネパールでは仕組みやルールが曖昧な部分もあり、それで苦労したこともたくさん。土砂崩れで商品が運べない!というような事態も容易に起こります。

昨年は、コロナウィルスに対するネパールの厳格なロックダウンにより、数ヶ月は商品を出荷できない状況が続きました。

「もちろんそういった会社の課題もあるし、もっと大きな意味での社会問題も含め、いろんな問題はありますよね。だけど、その度に思うのは、弊社は、いろんな課題を一生懸命個別に解決しようとするよりも、“個人の幸せを増やしていく”ことを目指したいということ。その方が、その周囲の課題も自然と解決していくと思うんです。」

 

利益第一ではなく、人々の幸せを循環させることを第一に。

そんな仲さんの思いが繋ぐ、SANCHAIのピーナッツバター。 

私たちが美味しくピーナッツバターをいただくことによって、コタンの人々の笑顔がもっとたくさん増えるのだったら、こんなに嬉しいことはない。そう考えたら、コロンと可愛いこのピーナッツバターの瓶が、さらに愛おしく思えてくるのではないでしょうか。

ネパール・コタンの人々の幸せが、ずっと続きますように。

そして、私たちの幸せも、ずっと続きますように。

 


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